心不全にスタチンを推奨できない理由

心不全にスタチンを推奨できない理由

https://www.carenet.com/news/general/carenet/47680

静かに忍び寄る心臓悪液質とは

心臓悪液質とは、心不全において負の窒素・エネルギーバランスが生じ、骨格筋の減少を伴った体重減少をきたす予後不良の病態である。

この患者割合についての日本人データは乏しいが、欧州臨床栄養代謝学会議(ESPEN)のガイドラインによると、世界ではNYHAII~IV分類の12~16%に存在していると言われている。

心不全患者の10人に1人が予後不良患者に該当し、このような患者の8割強はフレイルや低栄養を呈している。


心臓悪液質をどのように疑うのか

心臓悪液質の診断基準は存在するものの、これを簡便に用いることは非常に難しい。

アルブミンや体重などを含むGNRI(Cut off 95.3)、体重減少率の一部がオーバーラップするMNA-SF(簡易栄養状態評価表、Cut off 9)や基本チェックリスクスコア(Cut off 12)の3つの指標が強く関連したというデータより、これらのCut off値に引っ掛かる患者は悪液質を疑う。


心臓悪液質は“浮腫”の存在が厄介

がん悪液質とは異なり、“浮腫”の存在が厄介な心臓悪液質。

これは、うっ血性心不全による変化の一つとして腸管浮腫が出現し、さらには腸管浮腫も心不全の増悪や心臓悪液質の進行を助長する 、という相互関係による影響と考えられている。

この心不全で生じる腸管浮腫が、バリア機能を破綻しリポポリサッカライド(LPS)産生を招いているという。

一方で、LPSにはコレステロールに結合する機序も考えられており、LPSが炎症性サイトカインを惹起するレセプターに結合する前にコレステロールと結合してしまえば、悪液質の進行が抑えられる。


心不全患者にはスタチンを推奨しない理由

心不全における総コレステロールと予後の解析では、コレステロール値が高い患者の予後が良いと示されたほか、心不全で問題となる左室収縮能が低下した例での血清コレステロール低値や心筋梗塞患者の低栄養によるLDL-C低値では予後が不良であることも報告されている。

また、心不全ではうっ血(後方障害)のほかに、血液の拍出量低下(前方障害)が問題になるが、腸管血流低下によってもLPS上昇が引き起こされる。

血流障害は炎症を上げるだけではなく、LPSの濃度の上昇も示している。そして、左室駆出率が低い患者のようなLPSが上がりやすい病態でコレステロールが低いと、LPSの上昇により圧倒的に予後が悪い。、

心不全患者へスタチンが推奨できない理由を腸内浮腫の観点から “ 不要な ” スタチン内服を避けることが望まれる。

ただし、脂質異常を呈する場合や冠血管疾患管理に重点を置く必要があるなど、服用のメリットが高い症例にはスタチンが必要となる。


アメリカの心不全ガイドラインでは、心不全治療薬としてのスタチンの積極的な使用はClassIII(望まれていない)、日本でも心不全の治療に対するエビデンスはないので、使用しないことが言われている。

そして、βブロッカーやACE阻害薬の導入率が上昇したことで体重が増加するようになったことは良いが、それは、心不全の改善により結果的に体重増加が得られたことを示し、栄養改善によるものではない。

心臓悪液質の患者の体重を増やすことだけが治療目的ではない。





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